| 2010年の夏,北海道歯科医師会主催の学術大会で口演した内容を論文にし,北海道歯科医師会雑誌へ投稿しました.これは,その内容を記載したものです.何かの参考なれば幸いです. | ||||||||
|
|
||||||||
| インプラント周囲早期骨変化量へ影響する初期固定,骨代謝関連生化学検査,喫煙習慣,粘膜治癒の比較 ○南部聡1) 山本英一2) 和田義行3) 磯村治男2) 1) 旭川歯科医師会会員 2) 十勝歯科医師会会員 3) 札幌歯科医師会会員 <緒言> 歯科インプラントの埋入時の初期固定や粘膜の治癒状態は,予後に大きく関与すると考えるが,治療経過に伴う周囲骨の変化に関する修飾因子の研究は意外なほど少ない.そこで今回我々は,過去に経験した臨床例について術前の理学的所見や問診結果のなかで何が有効であったのか,初期固定の状態,喫煙習慣,血液生化学検査とインプラント周囲早期骨変化についてスクリーニング的な視点から結果の検討を行った. <方法> ・母集団について 歯科インプラントを用いた治療例として2009年9月から2010年4月までの間に行った特記すべき既往歴を持たない患者,男性6名,女性20名合計26名,歯科インプラント体62本を母集団とした. 使用したインプラント体は,全てフリアデント社製XiVEィ(ザイブ)インプラントシステムを用い,通法に従い埋入を実施し骨や粘膜に対して特殊な追加的な手技を用いなかった症例に限定した. 本研究に用いた治療データの使用について,事前に学術的使用を患者に説明し承諾を得た. ・ 検討材料に使用した臨床データ 1) インプラント周囲早期骨変化量の算出方法と骨吸収群,骨添加群の分類 インプラントショルダー部と骨頂部を埋入時と2次手術時に計測し,その差をインプラント周囲早期骨変化量とした.62本インプラントの平均値を求め,平均値より変化量が大きい骨添加群,小さい吸収群に分類した.(図1) 2) 初期固定 埋入時の初期固定の状態から強固群とルーズ群に判定し分類した.埋入時のトルクが20 Ncm以上で埋入を完了した群を強固群,20 Ncm以下で埋入を完了した群をルーズ群とした. 3) 生化学検査 それぞれの患者から術前に得た末梢静脈血より,骨代謝に関わる生化学検査項目として血清カルシウム値,骨型アルカリフォスファターゼ値,血清ビタミンC値 を使用した.(表1) 4) 喫煙習慣 問診から,喫煙習慣の有無と過去歴により非喫煙群,禁煙群,喫煙群に分類した.非喫煙群とは現在と過去に喫煙習慣がない群,禁煙群とは過去(喫煙期間と禁煙期間を問わない)に喫煙習慣があった群,喫煙群とは現在喫煙習慣がある群とした. 5) 粘膜の治癒 全ての症例に対し1次治癒が行われる様に切開,剥離,縫合の手技を施したが3ヶ月の治癒期間中に発生した歯肉裂開の有無により,正常治癒群と粘膜裂開群に分類した.(図2) ・統計処理 得られたデータについて統計学的な処理を行い傾向性の判定を行った.判定には,Microsoft社製表計算ソフトMicrosoft Excelィ の統計関数 Student's T test を使用し P<0.05 を有意水準とした. <結果> 1. インプラント周囲早期骨変化量について 母集団の埋入時の周囲骨の平均値は2.597mm ,2次手術時の周囲骨の平均値は1.613mm ,インプラント周囲早期骨変化量の平均値は −0.985mmであった.骨の変化量が大きかった骨添加群の平均は,0.697mmであり,骨吸収群は −2.62mmであった.(図3) 2. 初期固定と早期インプラント周囲骨変化量について 母集団から治癒期間中に歯肉裂開した例を除き対象とした.インプラント周囲早期骨変化量についてそれぞれの平均値を算出した結果,強固群 −0.5 mm (29本),ルーズ群 −0.6mm(10本)と強固群の方がルーズ群より結果は良いが,有意差はなかった.また,全ての例で脱落はなかった. 3. 生化学検査とインプラント周囲早期骨変化量について 母集団のなかから非喫煙者を対象としインプラント本37本について検討行った結果,それぞれの結果に有意差はなかった.(表2) 4. 粘膜の治癒分類と早期インプラント周囲骨変化量について 歯肉裂開は62本中4本に認められた.裂開群のインプラント周囲早期骨変化量の平均は,−4.5 mm 非裂開群は,−0.6 mm と裂開群の方に吸収量が多く著しく有意差があった.(図4) 5. 喫煙習慣とインプラント周囲早期骨変化量 喫煙者群 −3.17mm,禁煙者群 −0.64 mm,非喫煙者群 −0.73mm,と喫煙者群は,特に禁煙者群と差が大きく有意差があり,非喫煙者群に比べても著しく吸収量が多かった.(図5) 6. 喫煙者と血清ビタミンC値について 喫煙者6.9 禁煙者6.26 非喫煙者11.33と喫煙者と禁煙者が著しく低値を示し,喫煙者群と非喫煙者群で有意差があった.(図6) <考察> 自験例では全て術前に血液学的な検査を行っているが,今回注目した血清Ca値,骨型ALP値,血清VC値 についてインプラント周囲早期骨変化量の添加群と吸収群に分けると,血清Ca値の低い方に骨添加が平均的に多く,体幹骨と血清Ca値の関係と近い傾向を示し,顎骨も全身の骨と同じ代謝傾向であることを示唆している.1.2) 埋入したインプラント体が初期固定を獲得したかどうかは大変重要な予後に影響する所見である.自験例では初期固定の有無を20Ncmの回転抵抗があるかないかをひとつのラインとした.強固群の方がルーズ群より骨の添加が平均的に多いが両群間に有意差はなく,また全ての例でインプラント体が脱落することはなかった.過去の見解の通りできるだけ初期固定を適切に得ることが治療成功の通過点であることに違いはない. 治癒期間中,粘膜の下にあるべきインプラント体が粘膜の裂開にともなう細菌感染を発症するとインプラント周囲骨は急速に減少する.自験例では62本中4本,(発生頻度6.25%)に歯肉裂開が起こりインプラント周囲骨は著しく吸収した.喫煙習慣のある患者に多く発生していることから,喫煙により炎症性サイトカインが発現されやすい口腔粘膜の環境の結果ではないかと推測する.3.4) 一方で,喫煙者と禁煙者の血中ビタミンC濃度は,非喫煙者に比べ著しく低く,消費されやすい傾向を示した.ヒトは体内に1500 mg のビタミンCを貯蔵し,タバコ1本で体内のビタミンCは25 mg〜100 mg奪われる.古くから,ビタミンCがコラーゲン基質の産生と骨芽細胞の分化に必須であることが知られており,prolyl-lysyl hydroxylaseの補酵素としてコラーゲン分子の翻訳後の修飾に不可欠な分子である.特にヒトは,ビタミンCを合成する機構が存在しないため食事からの摂取が不可欠である.喫煙は健康に害があるが,個人の嗜好であるため治療を理由に禁煙を求めることは難しく,たとえ禁煙したとしても喫煙習慣による影響は数ヶ月以上続く可能性が高い.その場合,患者の血液検査結果をもとにビタミンCのコラーゲン産生と抗酸化力による粘膜治癒や骨治癒への影響,禁煙者を含む喫煙者の予後について説明し栄養指導,食事指導を行うことが患者と治療者双方にとって良いのではないかと思う.5) ビタミンCの摂取が予後に有効であるかどうかは本研究で判定は難しいが,非喫煙者では血清ビタミンC値とインプラント周囲早期骨変化に関係はなく良い結果を特に期待できなかった一方,歯肉裂開を起こした例は明らかに喫煙者に多く,同時に血清ビタミンC値が低下している.そして,1例ではあるが喫煙者であってもビタミンCをサプリメントとして摂取することで高い血中濃度を維持することができ,インプラント周囲早期骨変化量も非喫煙者と変わらない結果を経験したことから,喫煙習慣のある患者に対する血清VC濃度の維持が治療結果を改善する可能性を示唆し,さらに検証する必要を感じた. 参考文献 1)greendale GA. edelstein S and barrett-connor E.: Endogenous sex steroids and bone mineral density in older women and men.the Rancho Bernardo Study,J.Bone Miner Res.12:1833-1843, 1997 2) 南部聡、山本英一,和田義行,磯村治男,松崎紘一,神田昌巳,田村正人,小川優,松沢耕介:血清Ca、血清Mgと顎骨CT値の関係.日本口腔検査学会雑誌,Vol.1,No.1:28-30,2009 3) Satoshi Nambu, Ryuichi Fjisawa, Masato Tamura: A study of the relationship between early marginal bone loss and the expression of TNF−αin implant treatment, Hokkaido journal of Dental Science, Vol. 28, No. 1: 2-9, 2007 4) Hidekazu Yamamoto, Yoshiyuki Wada, Ryuichi Fjisawa,Masato Tamura: A study of the relationship between early marginal bone loss and the expression of IL-1βand IL-6 in gingiva in implant treatment, , Hokkaido journal of Dental Science, Vol. 27, No. 2: 394-405, 2006 5) Harada S, Matumoto T, Ogata E, : Role of ascorbic acid in the regulation of proliferation in osteoblastlike MC3T3-EL cell. J Bone miner Res 9 : 903-908, 1991 |
||||||||
| 森の風インプラント歯科クリニック | ||||||||
![]() |
||||||||
![]() |
||||||||
![]() |
||||||||
![]() |
||||||||
![]() |
||||||||
![]() |
||||||||
![]() |
||||||||
![]() |
||||||||