2008年.日本口腔インプラント学会(東京)にて発表した研究内容について掲載します. 院長のホームページにもどる
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血清鉄,血清フェリチンとインプラント体周囲の早期骨変化量
A study of the relationship between serum iron , serum ferritin and early marginal bone loss in implant treatment
○ 南部聡,山本英一,和田義行,市川大,佐藤周二,北川英二,井上一彦,
目良尚子,神田昌己
1. 表題
2. 目的
 インプラント治療は,歯科臨床において一般的な治療法の一つとして広く行われるようになりました.しかし,現在に至っても,その予後が不良となる症例も多くみられ成功率や生存率は100%ではありません.
 一方でインプラント治療の予後を推測しうる顎骨の診断法はなく,術者の経験や知識で推測されるのが一般的であります.これからの展望として骨質診査,骨代謝マーカーの生化学検査,遺伝子的背景などから骨代謝の傾向性を判断することでインプラント治療の予後を推測する客観的な診断根拠を構築することが現在の課題であると考えられます.
 本研究は,インプラント症例の患者の血液から得られた血清鉄,血清フェリチンの値とインプラント体周囲の骨変化量の関係を評価することを目的としました.

3.研究方法その1
 研究の方法についてご説明します.
研究対象は平成18年にインプラント治療と血清鉄,血清フェリチンの術前血液検査を実施した症例です.
被験者合計11人,平均55.7才,インプラント体47本,
一人平均インプラント埋入4.27本,
内訳は,男性4人,61才から72才,平均年齢65.78才
女性7人,39才から69才,平均年齢52.23年です.
すべての症例は,骨代謝に関する疾患の既往歴がないことを条件としています.

4.研究方法その2
 使用したインプラント体の種類は全例AQBインプラントです.埋入時に骨造成術を施行しない症例であること,初期固定があること,抜歯後即時埋入症例ではないこと,隣在歯に歯周病がないこと,などの条件を設け通法に従い埋入を実施した症例を選び対象としています.

5.研究方法その3
 術前に患者の抹消静脈血を採取し即日,臨床検査を外注委託し,後日血清鉄,血清フェリチン値についての得られた数値を研修資料としました.
 早期骨変化量の測定についてご説明します.すべの症例は,術前検査としてCT撮影診断をおこない,解剖学的骨形態の検討,骨幅の計測を行い適切なインプラント直径と長径を選択しています.埋入手術は,術前の埋入計画に従い慎重に実施されました.

6.研究方法その5
 インプラント体埋入時にインプラント体の近心,遠心,頬側及び舌側の4点について,インプラント体上縁から骨頂縁まで距離をポケットプローベにて計測しました.さらに4点の計測値を総和し術前の検査値としました.
すべての症例は埋入から3ヶ月経過後局所麻酔下にて2次手術を実施しました.その際に埋入時と同様にインプラント体の近心,遠心,頬側及び舌側の4点について,インプラント体上縁から骨頂縁まで距離をポケットプローベにて計測し,4点の計測値を総和し術後の検査値としました.早期骨変化量は,埋入時の値から術後の値を差し引いた数値としています.

7.結果その1
 早期骨変化量の分類についてご説明します.
早期骨変化量から2群にわけました.骨吸収群は変化量がマイナスの群とし,47本中23本が吸収群で平均 - 2.98 mm でした.
骨添加群は変化量がプラスの群とし,47本中17本,平均値2.32mm でした.

8.結果その2
 血清鉄値について結果をご説明します.
骨添加群の血清鉄値の平均値は 77.6 mg/dl,骨吸収群の平均値は 98.0 mg/dl, T-testを使用した有位差検定をおこなった結果,危険率0.05以下の有位差が認められました.

9.結果その3
 血清フェリチン値の結果についてご説明します.
骨添加群の血清フェリチン値の平均値は38.4 ng/ml,骨吸収群の平均値は 58.11 ng/ml,T-testを使用した有位差検定をおこなった結果,大きな違いがあるものの有位差が認められませんでした.

10.考察
 この度の研究は,体内の鉄とインプラント周囲の骨代謝について関連があるのかどうかを検討することが目的であります.
血清鉄の参考値は,70から160 mg/dl,血清フェリチンの参考値は4.6から204 ng/mlであり,今回の症例は全例が参考値内でありました.その範囲に中に於いても血清鉄値が低い方がインプラント体周囲骨が添加しやすい傾向にあるという結果が得られました.


11.考察その1
 人体にとって鉄は,大変重要であり,免疫機能,造血機能に大きく関与し,必須のミネラルであります.磯村らは,血清鉄による酸化ストレスと骨粗鬆症ラットの骨密度に関連性があると報告し,骨代謝において鉄は骨吸収に働く傾向があると報告しています.この度の自研例においても,同様の傾向を示し2価鉄から3価鉄へのフェントン反応で産生されるヒドロキシラジカルの酸化力が骨吸収に関連している可能性が示唆されました.


12,考察その2
 インプラント埋入後の骨組織は,組織損傷から抹消循環が分断することで活性酸素が増加,抗酸化物質の供給減少の出現が予想され,鉄の増減が骨吸収に影響を与えたものと推測されます.しかし本研究は,鉄とインプラント周囲早期骨代謝の関連性について考察を決定づけるには扱った症例数が少なく,今後より多数の症例を比較検討する必要があると思われます.以上です.